アンティークレッスンNo6は、18世紀のクレオパトラのインタリオリングについてご説明させて頂きます。
クレオパトラがモチーフのリングはかなり珍しく、特別に注文された事がわかる素敵な18世紀のリングです。
このインタリオをお買い上げ頂いたのはとても有名な物理学者の方で、こんな質問をして頂きました。
「何故、このモチーフがクレオパトラと言えるのですか?ギリシャ時代の普通の女性のようにも見えますが、違いを教えて下さい。」
モチーフを特定する時には現代の感覚で考えるのではなく、古代の資料とインタリオを見比べて細かく観察することが大切です、さらに18世紀当時の人々や文化、このリングを作った人物を想像すると理解が深まります。
この質問にお答えした内容を元に、このインタリオが作られた時代を舞台に、あなたを主人公にした小さな物語を作ってみました。
H.G.Wellsの映画のようなタイムシーンで18世紀へタイムスリップしてみましょう。。。
18世紀には、1738年にローマで古代ローマ都市ヘラクラネウム、1748年に古代都市ポンペイの発掘が開始されるという一つの大きなムーブメントがありました。
人々は未知の古代都市の存在に熱狂し、、、
遺跡から発掘される古の美に憧れを募らせます。
古代都市の発掘は18世紀からその後も長く続けられ、多くの遺物が発掘されました。
裕福な人々は実際にローマ都市へ周遊し、特にイギリスではグランドツアーと呼ばれる長期旅行にローマが組み込まれるなど、当時の貴族階級の人々の教養にとってなくてはならない土地がローマだったのです。
「サビニの女たち」ジャック=ルイ・ダヴィッド 1799年 ルーブル美術館
古代遺跡や彫刻は18世紀の芸術にも影響を与え、バロックの要素が強いロココ様式とは違った古典の影響を得た新古典主義が生まれます。
「ホメロス礼賛」ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングル 1827年 ルーブル美術館
芸術家達はこの新古典主義の作品を作り傑作も多く生まれていきました。
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ここからは、古代美術への情熱が花開いた18世紀、インターネットもテレビもない時代にあなたが生きていると想像してみて下さい。。。
美しい芸術に興味の有るあなたは古代ローマ美術の愛好家の青年でした。
古代遺跡の書物を読んだあなたは古代遺跡を実際に目にする為に
ローマを訪れることにします。
ローマでは沢山の素晴らしい古代遺跡に足を運び、美術館やプライベートコレクションの古代の彫刻やレリーフ、インタリオ、カメオを目にし、古代世界の美に圧倒されてしまいます。
古代美術への情熱が頂点に達したあなたは、、
「古代ローマやヘレニスティックの素晴らしいインタリオを美しい指輪にセットしていつも身に着けていたい ! 一体どうすれば、美術館で見たようなインタリオを指輪にして身に着けていられるのだろう、、、?」
、、と夢を見始めます。
当時、あなたの夢を叶える方法は3つありました。
1、本物の古代ローマかヘレニスティックのインタリオを幸運にも獲得する(入手が難しく非常に高価です)
2、フェイクの古代のインタリオを購入する(18世紀後期より、古代ローマやギリシャのインタリオの模倣作品が古代世界に興味を持ち始めた愛好家達へ作られ始めます。フェイクインタリオの始まりです。)
3、現代の(18世紀当時の)彫刻師に依頼して、古代風のオリジナルインタリオのリングを注文する。
あなたは考えた末に古代風のオリジナルインタリオのリングを注文することにします。
18世紀当時、古代風のオリジナルインタリオをセットした指輪を作る事はお洒落で斬新な事でした、あなたはこのアイデアにとっても満足しています。(このクレオパトラのインタリオリングはインタリオのスタイルと指輪のスタイル、セッティングから18世紀の指輪だということは明らかです。このレッスンでは説明は省きます。)
「せっかく注文するのだから、古代世界の最も惹かれる人物をモチーフに選びたい、、」
沢山の古代世界の人物を想う中で、あなたは学生時代に読んだ古代ローマの伝記作家スエトニウスが2世紀に書いた「De vita duodecim Caesarum libri」を思い出します。
その本はジュリウス・シーザーについてラテン語で書かれた本でした。
ルイ・ゴフィエ 1788年
ロマンティシズムの始まりでもあったこの時代、シーザーとクレオパトラの力と愛と死のロマンティックでダイナミックなストーリーに強く心惹かれたあなたはシーザーかクレオパトラをモチーフに選ぶ事を考えます。悩んだ末、あなたは男性だったので、女性であるクレオパトラをモチーフに選びました。
クレオパトラを注文する事に決めたあなたは、芸術的なセンスも技術も兼ね備えた評判の高い彫刻師に早速注文をします。
感性豊かな芸術家でもある彫刻師は、クレオパトラのインタリオリングの作成、というかなり珍しい注文をとても興味深く思いました。
彫刻師は古代美術への深い情熱と優れたセンスを持つ注文主に満足してもらえるようなインタリオリングを作る為に、本物の古代の資料から自分のイマジネーションを膨らませる事ができるようなものを探しました。
彫刻、レリーフなどにも良い物がありましたが、中でも古代のコインは大きさもインタリオに似て小さいし、クレオパトラの顔がいろいろなバージョンで表現されているし、資料としても身近で手に入りやすい事に気がつきます。
そこでいくつかの古代のコインを参考にし、クレオパトラと特定できるような大切な特徴をきちんと取り入れる事に注意しながら、芸術家である自分のイマジネーションも加えて美しいクレオパトラのインタリオリングを完成させました。
注文したクレオパトラのリングを受け取ったあなたは想像以上の出来映えに感動します。
「こんなに素晴らしい指輪なのだから、古代のクレオパトラの彫刻のように長く残ってくれたら素晴らしいな、、、」とずっと大切にしました。。。
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それが、このインタリオリング、18世紀の注文主と彫師のコラボレーション作品です。
約250年の時を超えて大切にされて、良い状態で残っています。
素晴らしい事ですね。
勿論、このインタリオリングが出来る過程は、例として今回ご紹介した青年の話以外にも沢山の可能性があります。
もしかしたら、クレオパトラ好きの恋人へプレゼントする為に注文した品物だったのかもしれません。
いろいろな物語を想像してみて下さいね。
一度、物理学者の質問に戻ってみましょう。
「何故、このモチーフがクレオパトラと言えるのですか?ギリシャ時代の普通の女性のようにも見えますが、違いを教えて下さい。」
それでは、何故、このリングがクレオパトラと言えるのか?
実際に古代のコインと見比べていきたいと思います。
このインタリオを粘度に押した画像を見てみましょう、彼女には独特の特徴がある事に気がつきます。
それは、、
1)ティアラ
2) ポコポコした独特の髪型
3)丸く結った髪型 耳付近の長い毛
4)衣服
、、、の4つです。
18世紀には、古代のインタリオの専門書などはもちろん無いので、彫刻師は美術館や有名なコレクションの彫刻、レリーフ、古代のコイン、インタリオ、カメオなどの中からインスピレーションを受けていた事になります。
その中でも、彫刻師の一番身近にあり、手に入りやすく、効果的に参考になるものは古代ローマや古代ギリシャのコインだったと思われます。
まず、このインタリオの女性が身に着けているティアラ、ティアラは特別な装身具です。
これは彼女がおそらく神々の女王ヘラ、もしくは人間の女王、皇后という事を表しています。
ここで普通の古代世界の女性という可能性は消えます。
そして、この丸くボコボコした髪型には非常に特徴があります、女神でこのような髪型の女性はいません。
そこで女王や皇后のコインを調べたところ、この髪型の特徴を持っているのは女王クレオパトラでした。
クレオパトラは多くの絵画が表しているように18世紀には既にポピュラーな存在、特別に注文するには十分の人物です。
さらに、神々を特定するような特別なアートリビュートも彫り込まれていません。人間の女王クレオパトラの可能性が高い思って良いようです。
そして、この丸まった髪型と巻き毛、この髪型もクレオパトラのコインや彫刻に見られる特徴です。3つもクレオパトラと同じ特徴がそろいました。このインタリオのモチーフは女王クレオパトラと言えるでしょう。
それでは実際にクレオパトラの古代のコイン等を見てみたいと思います。
同じ特徴を白丸で囲みました。
インタリオと資料を見比べる時、顔が似ているかどうか?完璧に酷似しいているかどうか?ということはそれほど重要ではありません。
なぜなら、18世紀の芸術家である彫刻師にとって表現は自由であり、必ずしも酷似させなければいけない理由は無いからです。
おそらく、見比べた資料の中で(おそらくコイン)彫刻師にとって一番想像力をかき立てたもの、そしてクレオパトラだと特定できる大切な特徴を主に抜き出して彫刻師の感性で作品を仕上げていたからです。
コインのクレオパトラのティアラと、インタリオのティアラは形状が違いますが、頭にティアラをつけている、という点が認識出来れば良いのです。おそらく彫刻師は、クレオパトラが普通の女性ではなく女王である、ということをより強調する為に、このような形状のティアラにしたか、もしくは顔と頭部の差をよりはっきりさせて横顔を印象深いものにしたかった、などの理由があると思います。
このコインのクレオパトラはイヤリングとネックレスを身に着けているタイプです。このように、必ずしもクレオパトラのイメージは一つだけではありません、あくまでもクレオパトラの特徴を備え、やや特徴に差があるコインも存在しているということです。
他のコイン。
こちらはクレオパトラの彫刻です、首筋の毛がはっきりと共通点として見られます。
こちらは他の彫刻の例、共通点があることがわかります。
このようにして、インタリオの特徴を細かくとらえて資料と比較するとインタリオのモチーフがクレオパトラであるという事がわかるのです。
さらに文化的背景や注文主の心理なども加えて想像すると、より深く作品を理解できます。
まるでタイムマシンで旅に出ているみたいで面白いと思いませんか?
Parisのアンティークディーラー 仙波亜希子 Akiko semba
携帯電話 080-3364-3978
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アンティークテクニック第一回はゴールドオープンワークです。
ゴールドオープンワークは固い金属に複雑な透かしを施す繊細で難しい技術です。
ギャラリーで扱っている透かしが美しいこのバングルもゴールドオープンワークの素晴らしいテクニックが使われた作品です。この美しい透かしがどのように作られているのかをご説明したいと思います。
〜ゴールドオープンワークの手順〜
1 通常0.8cm~1.2cmの厚さの薄いゴールド板を用意します。
2 トレーシングペーパーに油性の黒いペンシルで仕上げたいデザインの絵をかきます。
3 金の板に白い接着剤を載せます。
4 絵をかいた紙を金の板に載せます。
5 白い接着剤に描いた線が残ります。
6 金属の尖った道具で線を彫ります。
7 線を彫ったら残った余分な接着剤を取り除きます。
8 彫った線の中央にドリルで小さな穴を開け、、、
9 小さな穴に細い糸鋸の刃を通し、、、
後から糸鋸に刃をセットし、刃には滑りやすくするためにワックスを塗っておきます。
固い金属を細い糸鋸で寸分の狂い無く細かく削っていくのは大変難しい技術で、余分な部分を削りすぎてしまったりすることが殆どです。糸鋸の角度や力加減で仕上がりには大きな差が出ます。
10 線に添って糸鋸を動かし金を削っていきます。糸鋸は力を入れすぎたりすると糸鋸の細い刃が折れたり曲がったり、金属に引っかかって刃がスムーズに動かなくなるなど力加減がとても難しいのです。
ヴェネチア 15世紀のオブジェ
この技術は主に19世紀中期に用いられますが、17世紀、15世紀にも使われています。
古代ローマのリング
ゴールドオープンワークの起源はエトルスカンの金細工にさかのぼり、他には古代ローマ末期の金細工にも使われています。
ビザンチンのバングル
このスタイルはビザンチンジュエリーまで良く使われていました。
ブリティッシュミュージアム opus interrasile 作品例
この技術は « opus interrasile »と呼ばれていました。
« Opus interrasile » とはラテン語で、opus は 作品 を意味し、interrasileは 透かし彫りの細工・透かし細工 を意味します。これは金細工装飾に含まれている金細工技術ですが、ドリルと糸鋸の変わりに、彫刻刀のような物と、金の板にダイレクトに穴を開ける道具を用いていました。
現代のゴールドオープンワークの例 扇
気をつけなければいけないのは、ゴールドオープンワークとフィッシュネット状の金細工の違いです。
ゴールドワークは手彫りのとても難しい仕事ですが、フィッシュネット状の細工は、ゴールドオープンワークに比べると規則的な模様を金線でつなげていくだけの、単純で難しくない価値の低い仕事だからです。
この違いは簡単に分かります。ゴールドオープンワークの場合、糸鋸の刃の跡を見る事ができます。一方フィッシュネット状の仕事は金線と金線、フレームにロウ付けの跡を見る事が出来るからです。
これらはフィッシュネット状の現代の細工です。
透かし細工ということでは共通していますが、、
ゴールドオープンワークとは技術も手間も全く違いますから、、、
注意が必要です。
ギャラリーで扱っているゴールドオープンワークのジュエリーをご紹介致します。
びっしりと一カ所のミスもなく施されたオープンワークのバングル。
透かしが軽やかなクロスペンダント
オープンワークのロケットペンダント(このお品物は売却済みです、ありがとうございます。)
Parisのアンティークディーラー 仙波亜希子 Akiko semba
アンティークレッスンNo4フェイクアールコジュエリー編を再開したいと思います。
(予習)で掲載した写真はご覧頂けましたでしょうか?(^-^) 普段はこういった事をじっくり考える機会もなかなか無かったのではないかと思います。
予習で掲載した写真はすべてフェイクです、あまり綺麗な写真ではありませんでしたが、アンティークジュエリーに見える品ばかりだったと思いますし、 フェイクアールデコジュエリーが存在する、ということを感じて頂ければ嬉しいです。
今回は見分けるポイントを文章でお話したいと思います。
まず、文章だけを掲載しますから、文章をよく読んでみて下さい。そして次回のレッスンより写真付きでそれぞれのポイントを少しづつ解説したいと思います。
1) デザイン
フェイクアールデコのデザインは本物よりも劣ります。
フェイクのデザインからはインスピレーションが感じられないものが殆どです。例えば、フェイクは全体のデザインがどっしり直線すぎたり、デザインにポイントがない為に重く見える事がよくあります。でも、これだけではフェイクだということにはなりません。アメリカのアールデコ作品はエレガントさにかける場合がよくあるからです。
2) 作り
作りはおそらく、フェイクを見分ける上で最も重要な要素だと思います。大抵のフェイクジュエリーと本物のジュエリーは作りには違いがあります。
通常フェイクジュエリーの仕上げには雑さがみられます、もっともよくわかるのは裏の作りでしょう、石の裏の穴の開け方が丸い穴だけであったりします、またフェイクのミルグレーションは本物のミルグレーションとは違います、そしてフェイクのセッティングと本物の石のセッティング、特に爪止めなどにも違いが現れます、接合面でもフェイクと本物では違いがあります。
クオリティの低いフェイクジュエリーは機械で作られており、手仕事ではありません。
3) 金属
金属も非常に重要なポイントです。
高品質のアールデコジュエリーはプラチナで作られます、ホワイトゴールドではありません。
そして、時々ホワイトゴールドをブローチの裏、リングのフープ部分などに部分的にプラチナと共に使う事があります。また、プラチナと混ぜられたイエローゴールドを(裏面など)見ることができます。しかし、金の色はモダンのジュエリーと古いジュエリーでは差があります。もし、全てがホワイトゴールドでアールデコジュエリーと呼ばれるジュエリーがあったら気をつけて下さい。
4)石
大抵の場合、フェイクメーカーは貴重な石を使わず、価値の低い石を使います。例えば、大きなダイヤモンドやバゲットカットよりも小さなダイヤモンドを好みます、また、半貴石の場合は珊瑚や翡翠よりも価格が低いオニキス、水晶、ラピスが良く使われます。
そして、着色した翡翠や中国産の珊瑚がつかわれたアールデコジュエリーと呼ばれるジュエリーがあったら特に気をつけて下さい。
5)石のカッティング
オールドカットのダイヤモンドを使っているからと言ってそれは本物のということにはなりません!フェイクメーカーはオールドカットのダイヤモンドをフェイクアールデコジュエリーによく使う事があるからです。そして、エメラルド、ルビー、サファイヤなどのカラーストーンのカッティングがモダンのカッティングであった場合も気をつけて下さい。
6)チェーン
フェイクペンダント、フェイクネックレスにフェイクメーカーはモダンのチェーンをよく使います。それは古いチェーンが貴重で見つけるのが難しいからです。アールデコジュエリーと呼ばれるジュエリーのチェーンがモダンのチェーンに見える場合、作りがモダンの場合、モダンのデザインの場合、使われた形跡がない場合は気をつけて下さい。
7)ホールマーク
通常、アンティークには金属を表すホールマークが打たれています。特にフランスのアールデコジュエリーはそうです。しかし、フェイクアンティークジュエリーにホールマークを見つけることは大抵の場合はできないでしょう、時々モダンのホールマークが打たれていることがありますが、それは明らかなフェイクの証になります。アールデコジュエリーと呼ばれるジュエリーにホールマークが無い場合は気をつけて下さい。
8)使用感
古いジュエリーには大抵の場合は使用感が見られます。フェイクには使用感がありません、約100年は立っているアールデコジュエリーに使用感が全くないのは奇妙ですね、もし、アールデコと呼ばれる新品のように見えるジュエリーがあったら気をつけて下さい。
今回、沢山のポイントをお話しましたが、一つのチェックポイントに当てはまるからと言って、それがフェイクアンティークジュエリーになるかというとそうではありません。
例えば、、、
接合面がモダンの場合、それは現代の修理の可能性を示すだけでフェイクではないかもしれません。
モダンのチェーンがついていた場合や、モダンのストーンがついていた場合、それは後にモダンのチェーンが着けられたり、石を取り替えた可能性があり、フェイクではないかもしれません。
ですが、アンティークレッスンでも繰り返しお話しているように、一つの品物に沢山のチェックポイントが当てはまってしまった場合は、フェイクジュエリーと判断する材料になるのです。
そしてまた一方で、一つの良いポイントがあったからと言って、それが本物であるという証にもなりません。
注意深いフェイクメーカーは古い石を使ったり、人工的な使用感を加工したり、本物の古いチェーンをフェイクジュエリーにつけたりするからです。
もし、あなたが持っているアールデコジュエリーがフェイクかどうか知りたくなった方は、どうぞお気軽にお問合せ下さい。鑑定には鮮明なお写真が必要になります。
(鑑定のサービスはSoleil Membersの方に限ります。お申し込みはこちらからどうぞ☆)
☆次回のレッスンからは写真を取り入れて、具体的にポイントの説明をいたします☆
Parisのアンティークディーラー 仙波亜希子 Akiko semba
アンティークレッスンNo4 アールデコジュエリー編 はフェイクアールデコジュエリーを購入しない為 に役に立つ情報が多いと思います、読んで損はないレッスンですので是非お読みになって下さいね。
アールデコジュエリーのモダンで洗練されたデザインは現代の感覚に似ていて着けやすいですし、貴重なアンティークジュエリーを所有して身につけているという喜びもしっかり感じて頂けるので、日常生活には取り入れやすいアンティークジュエリーとして好まれています。
そんな人気のあるアールデコジュエリーですが、市場ではフェイクもよく見かけるようになってきました、日本へも本物という説明の元に自然に流れてきています。現地でもきちんとフェイクだということで売っているディーラーもいますが、フェイクと知りながら本物のアンティークジュエリーだということで売っているディーラー、フェイクだと見抜けなくて売っているディーラーもいますので、自分の身を自分で守る為にも認識を深めて頂きたいと思います。
本来、本物のアールデコジュエリーは大変貴重で、優れた作品を見つけるのは簡単な事ではありません。市場ではかなりレベルの高いフェイクアールデコジュエリーが出回っており、本物かフェイクかを見抜くのは、現地の生の情報をしっかりつかみ、きちんとした経験を積まないとかなり難しい事ですが、いくつかのポイントに絞ってお話させて頂きたいと思っています。
それでは皆様にお話させて頂く前にアールデコのジュエリーの写真を何枚か掲載致します。とても綺麗なジュエリーだと思いませんか? でも、これらのジュエリーが本物かフェイクか、写真が小さくて申し訳ないのですが是非冷静にお考えになってみて下さい。
皆様に良く考えて頂く為に少し時間を置いてからアンティークレッスン No4 フェイクアールデコジュエリー編を始めたいと思います。
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アンティークレッスン第3回目は鑑定が非常に難しい古代のリングについてです。レッスンも段々難しくなってきていますが、簡単なミニレッスンも行っていきますのでご安心下さいね。
今回も実際に頂いた相談内容から皆さんと一緒に鑑定を進めたいと思います。
相談内容は大地母神キュベレをモチーフにしたエレクトロムの古代ローマ2世紀の指輪が本物かどうかについて意見を求められました。
相談内容をまとめると、、。
1) モチーフは 大地母神キュベレである
2)年代は2世紀である
3)素材はエレクトロム(金と銀を混ぜたもの)である
4)古代の本物の指輪である
と、なります。
それでは経験に基づいてこの4つのポイントをそれぞれ確認をしてみます。
1)モチーフを良く見てみましょう。
頭に何かを冠った女性の横顔のモチーフですね。この特徴のある冠は城壁冠と呼ばれ主に運の女神テュケが冠っているものです。非常に稀に大地母神キュベレもポロスと呼ばれる城壁冠を冠っていますが、普通はテュケが冠っているものなので、キュベレよりもテュケの可能性の方が高いでしょう。
そしてこのリングのような横顔のデザインの運の女神テュケは紀元前4世紀〜紀元前3世紀の古代ギリシャのコインに見る事ができます。古代ローマのコインは皇帝の顔を表したものが殆どになり、女神の横顔のみが表現されることは普通はなく、大抵は立ち姿となります。そして古代ローマのコインにはキュベレは普通は見られません。
2)そしてテュケとキュベレは本来は古代ギリシャ、ヘレニズム文化の女神です。そのため、この指輪を古代ローマのリングと呼ぶのは違和感を感じます。また、このリングの六角形のベゼルは古代ローマのリングとしても普通の形ではなく、本物の古代ローマ時代のリングの中でもまず見た事がありません。この非常に珍しい形をしたこの指輪は通常の古代ローマ2世紀の指輪のスタイルではないと言えます。
3)素材はエレクトロムという事ですが、エレクトロムは金と銀の中間の素材の事です。エレクトロムが使われたリングは極端に稀で僅かな古代エジプトのリング、僅かなケルトのリング、僅かな西ゴートのリングに例が見られた事があります。そして、この指輪の表面に見られる摩耗跡に違和感を感じます、何故かというとこの摩耗の跡はエレクトロムに見られる摩耗跡ではありません、銅の摩耗跡に非常に似た跡です。
4)以上の事から古代ローマの2世紀の指輪ということですが、かなりの違和感を感じる六角型のベゼル、極端に珍しいエレクトロムという素材、表面に見られる銅に非常に近い摩耗跡、古代ローマ2世紀ではなく紀元前4世紀から3世紀のコインに同じデザインが見られる、という通常あり得ない多くの特徴が一度に見られるこのリングはフェイクアンティークジュエリーと言えるでしょう。
おそらく、このリングを使ったフェイクアンティークジュエラーは古代ギリシャのコイン、古代ギリシャのブロンズリングに着想を得てこのリングを作ったと思われます。
この指輪は本物の紀元前4世紀の運命の女神テュケの青銅製のリングです。摩耗跡もよく確認して下さい。
そして、こちらのゴールドのリングの写真もご確認下さい。この金は指輪はオックスフォードのx線の検査により古代の金であるという事が確認されています。しかし、それだけではこのリングが本物の古代の金の指輪であると言う証拠にはなりません。フェイクアンティークジュエラーは古代の金を使って古代のフェイクリングを作る場合があるので注意が必要です。これは是非覚えておかれた方が良いでしょう。
最後にフェイクアンティークジュエリーの鑑定についてお話させて頂きます。アンティークジュエリーには沢山のバラエティーがあり、多くの事が起こり得ます。一つの例外が起こった場合、それはすぐにフェイクには繋がりませんが沢山の例外が一度に起こった場合、それはフェイクのサインになります。
例えば、1000個の古代ローマの指輪を見たとしましょう。中にはおそらく一つのテュケの横顔の指輪、一つのエレクトロム、一つの六角形のベゼル、一つの奇妙な摩耗を見る事があるかもしれません。一つの例外が1000個の指輪の中に起こりえる事があるかもしれませんが、4つの例外が一度に起こることは通常あり得ないことです、そしてそれはフェイクアンティークジュエリーを示すサインになるのです。
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