リベルタン


中世ヨーロッパではペストの蔓延などで地域によっては死亡率が5割を越していたなど、死が極めて身近なものでした。
愛する者の命が目の前で失われていくのが当たり前の日常の中、人々は死や死後について考え始めます。
死後に神の祝福を得て天国へ召される為に生き残った人々が自然と教会へ集まり、宗教が重要になっていったのは自然な流れだったのです。 同時に、独特の死生観を反映した作品が生まれます。

Holbein-death 死の舞踏 ミヒャエル・ボルゲムート 1493年

死への恐怖感が頂点に達した人々は、埋葬や祈りの最中に狂ったように踊り始めました。それを表現した作品は死の舞踏と呼ばれています。 Danse-Macabre

死の舞踏では誰にでも死は平等に訪れる事を表す為、聖職者、貴族、若者、美少女、などのあらゆる人物が書き込まれる事もがありました。

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この作品はヴァニタスと呼ばれる静物画です、ヴァニタスとはラテン語で虚無を意味します。ヴァニタスは人生の儚さを表しており、描かれるモチーフにはそれぞれに意味があります。
この作品でいうと、左の花は若さや成熟を表し、右の砂時計は過ぎる時間を表しています、そして正面に置かれた骸骨、これは花で表現された若さに砂時計で表現された時の流れが加わり、いかなる若さにも確実に死が訪れる空しさを意味しているのです。

死を常に意識し神を敬うことが重要だと考えられていた中世の後に、それらの精神的、宗教的な重さを振り払うように訪れたルネサンスでは、人生の限られた時間を神への祈りに捧げるのではなく、縛られない自由な精神を持つリベルタンが登場します。
リベルタンは常識や戒律よりも自らの感じる自然な喜びや、欲望に忠実に生きる事を重んじた人々の事です。

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 Pierre de Bourdeille 1540〜16146月15日

フランスの歴史家、伝記作者の Pierre de Bourdeilleはリベルタンの一人でしょう。
名門貴族出身のBourdeille男爵家の三男で奔放な生活を好みヨーロッパ各地を放浪し、軍に入隊後は多くの戦にも参加し功績をあげましたが、1589年に落馬による後遺症で半身不随となり、その後は自身の経験や見聞に基づいた執筆活動に専念します。
今日でも有名なのはles Dames galantesという作品で、性に奔放であったルネサンスの婦人達について綴った作品です。

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このカメオはルネサンス時代に作られた特別なカメオです。
女神や神話などではなく、写実的で特殊な人物がモチーフに選ばれているところから特定の人物を表現した作品であるといえるでしょう。このような特別な作品が生まれるには必ず時代背景とリンクした理由があるのです。

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ルネサンスには古典主義が生まれましたから、古代ギリシャの哲学者を作品のモチーフとして選ぶ事がありました。このカメオの容貌をよく見ると、古代ギリシャの哲学者の一人であるディオゲノスに良く似ていることがわかります。

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ディオゲノスは極めて自由な精神の持ち主で楽しい逸話が沢山残っている人物です。

アレクサンドロ大王に何か望む物はあるか?と聞かれた時でさえも、日陰になって日向ぼっこが出来ないからからそこをどいて下さい、と答えたなど、物資的な富に興味を示さずにボロボロの着衣で酒樽に住んだと言われています。

常識や戒律に縛られない自由な精神はルネサンスのリベルタンに通じる物があります。おそらくこのカメオの注文主もリベルタンで、自由な精神を持ったディオゲノスをモチーフに選んで作成をさせたのでしょう。本当に素晴らしいカメオ作品です。
そして、このような大型のカメオは装飾品ではなく、家具などにはめ込む装飾用として作られたものです。

 

 

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