ノルマンディーのジュエリーには、特有の種類とスタイルがあります。その多様な形と製造技術の高さは、昔の統治体制下で金細工職人やジュエリー職人たちの重要な協働体制があったことを示しています。また、19世紀および20世紀には同地方の首都 (ルーアン) や中規模の都市 (ルアーブル、バイユー、アランソン、クタンス、ファレーズ・サンロー)に、実力のあるジュエリー職人がいたことも分かります。サンローの十字架、ルーアンの十字架、十字架の突起、サンテスプリといった、いわゆる伝統的形式の原型が見られるのは、むしろ17世紀や18世紀です。これらの豪華な装飾品は、選ばれた裕福な都市の中でも、特に身分の高い商人や中産階級の人々に使われていました。しかし、19世紀に入ると大衆化が進み、その後、ネックレスや、手の込んだ布地や髪を飾る宝石といった、ファッショナブルなジュエリーに広がっていくのです。 続きを読む
大小のステップカットダイヤモンドがセットされた、この19世紀のリングはとても珍しいリングです。何故なら、このリングのデザインはフランスの伝統的なジュエリーに由来しますが、通常はクロスペンダントのデザインとして用いられるもので、指輪に用いられるデザインではないからです、ですから、初めて見た時は、こんな指輪があることにとても嬉しくなりました。通常はこのタイプ↓のジュエリーの用いられます。
このクロスペンダントはクロワパピヨンと呼ばれ、一見古く見えるのですが1800年〜1840年の作品です。この一見古く見える、というのがフランスの伝統的なジュエリーの面白さの一つでもあります。
古く見える理由は宮廷で流行したデザインが、変化をしながら地方へ渡る時の時間差による為と、作りにあります、情報の早い現代と違い、流行やデザインが普及し実際に作られるまでに時間がかかっていたのです。通常はこのペンダントは一番上部のリボンを通す部分と、二つに別れるクロス本体の三つのパーツから作られます。大変繊細な作りの為、コンディションの良い作品を見つけることは難しく、ダメージが見られたり、パーツが失われていることが多く3つのパーツではなく2つのパーツから成る場合が多いです。
美術館所蔵 19世紀初期のパリュール ゴールド&ダイヤモンド おそらくフレミッシュ(フレミッシュは北フランス〜南ベルギーです。)
Musée du costume et du bijou provençal à Grasse
そして、通常はこのようにペンダントとピアスのパリュールです。
フランスのジュエリーをご紹介したサイト
上段にこのペンダントと同じタイプの作品、クロワパピヨンが掲載されています。左側の作品は、トップの部分が失われている為に、
二つのパーツから成っています。
このリングとクロスペンダントのデザインの共通点は、この部分です。細いのでちょっとわかりにくいですが、紫で囲んだ部分の波打つような台座の装飾、オレンジで囲んだ部分の金属をキュッとつまんだような石のセッティングの仕方です。通常はパリュールとして作られますが、このようなリングがあるのは、例外的にリングもセットで作られたのかもしれないですね、とても面白いです。
このように19世紀のフランスにおいて、各地方で作られるジュエリーには固有のスタイルがあり、これらは、« folk »または« traditional »ジュエリーと呼ばれました。
伝統的なカトリックの十字架にその地方特有の形とデザインが施されただけのものもありますが、いくつかの地方では、独特のスタイルを持った様々なジュエリーが数多く存在します。例えば、十字架、ペンダント、イヤリング、ブローチ、指輪、ネック レス、帽子用の飾りピン、櫛などです。これらのスタイルが見られる地方には、ノルマンディー、フランダース、カタロニア (ペルピニャン)、ラングドック、プロヴァンス、オーベルニュ、ブレスなどがあります。
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現在ギャラリーにて扱っている素晴らしいジュエリーをご紹介致します。この作品はフランスの貴族の歴史を鏡のように表している作品なのです。まず、ブローチ中央の楕円のエナメルの装飾に注目して下さい、これは貴族の紋章です。
この青と黄色の紋章、こちらは11世紀から続く de Sainte-Marie d’Agneaux 侯爵家の紋章です。紋章は紋章学と呼ばれる分野があるほど沢山の複雑な紋章があり、このようなシンプルなデザインの紋章は、この貴族が紋章という習慣が出来始めた頃からある大変古い家柄であることを示しています。
そして、こちらは de carbonnel de canisy 侯爵家の紋章。
そして、この二つの紋章が同時に並べられた装飾は、古より続く大貴族の両家の結婚の記念の為に準備された大変貴重なジュエリーだと言う事を表しています。また、貴族の紋章は結婚した場合は両家の紋章が混ざる事はありませんが、領地が重なって分配をした時は紋章が混ざり新しい一つの新しい紋章が生まれていました。
そして、この作品には FIDELIS FORTISQUE SIMUL という文字が刻まれています。
これはラテン語で記されたSainte-Marie d’Agneaux 家の座右の銘。意味は 「汝 誠実で勇敢であれ」 です。貴族の紋章の下部分にはモットーと呼ばれる言葉が記されており、その家の大切な家訓を示しているのです。モットーも調べると沢山の意味があるので、またブログでご紹介したいと思っています。
そして、このクラウンは公爵家という事を表します。角の数が爵位を表します。
そして、こちらは今回ご紹介した作品と同じタイプのジュエリーです。でも、紋章部分の下に何かぶら下がっていますね、このジュエリーはシャトレーンと呼ばれるジュエリー、今回ご紹介したジュエリーも本来はこのような姿だったのです。
このシャトレーンはフランスのジュエラー、Froment Meuriceによって、Christian de Villeneuve-Esclapon侯爵とナポレオンの姪のJeanne Bonaparteの結婚時に作成されました。
現在はナポレオンの妻ジョゼフィーヌの城、マルメゾン城美術館に所蔵されています。上部にクラウン、中央に両家の紋章が配置されています。
そしてシャトレーンは貴族の女性にとってとても重要なジュエリーでした。シャトレーンに、鍵、時計、裁縫道具などをつけベルトから下げる事で、自分が館の女主人である事を示していたのです。
こちらは誇り高い女主人の美しいシャトレーン達です。
パリのアンティークディーラー 仙波亜希子 Akiko semba せんばあきこ
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