古代ギリシャと古代ローマのカメオ芸術
- 2014年02月20日
- アンティークレッスン
古代ギリシャと古代ローマのカメオ芸術
カメオとは、単色か多層の様々な色が使われた石に彫刻をほどこしたものです。石に彫刻がなされていた紀元前2000年〜3000年のエジプトのスカラベにまでさかのぼります。
古代エジプトのスカラベ (紀元前19世紀) (メトロポリタン美術館)
1 – ギリシャのカメオ
沈め彫りとしてのインタリオは個人的な印章として使用されていたという特別な特徴があった為に、浮き彫りのカメオより早く出現しました。カメオにはそのような実用的な機能はなく、本質的には装飾の目的で使われました。最初のカメオは、ギリシャ社会で贅沢の発展に伴い現れたのです。
エジプト人とフェニキア人は、カメオ彫刻と、稀に裏側に人間や動物の姿が彫刻されているスカラベを、紀元前7世紀中にギリシャに持ち込みました。また、紀元前6世紀のエーゲ海近辺の金属製のコインの開発は、その後カメオの彫刻を始めることになる彫刻家達を育成しました。
金貨、リディア (紀元前600年)
紀元前5世紀、ギリシャ人とエトルリア人はスカラボイド(様式化されたスカラベの形に彫られた石) に神話的なものをいくつか彫刻しました。しかし、私達が知っているような «cameo» は、紀元前4世紀の後半に現れます。その時、暗い背景に対して瑪瑙で明るく強調している対照的な層を使用した、多層のカメオも現れました。
エルトリアのコーネリアン製スカラボイド(紀元前6世紀)
” The cameo form was invented about the time of Alexander the Great … The Hellenistic and Roman cameo was the response to a rising level of luxury . ” (Dr Martin Henig, Institute of Archaeology , Oxford)
「カメオの形(このカメオとは今日、私たちが知っている通常のカメオの事を説明しています。)はアレキサンダー大王の頃に発明された…ヘレニズムやローマのカメオは、贅沢さのレベルの向上を反映していた」 (マーティン・へニッグ博士、考古学研究所、オックスフォード)
私達は、古代の芸術家に関する情報をほとんど持っていません。歴史から分かることは、そのうちの幾人かの名前だけです。例えば、キオスのインタリオの彫刻家Dexamenos (紀元前5世紀に活動)、Pyrgoteles (紀元前336〜323年にアレキサンダー大王の下で従事)、蜂の群れに囲まれながら5層のサードニックスにリラを彫刻したことで知られる熟練したギリシャの彫刻家、サモスのDiodorusなどです。
アレキサンダー大王のカメオの肖像画、Pyrgoteles によって彫られたと言われている (パリ、Cabinet des Médailles)
紀元前3世紀、最高のカメオ芸術は、支配者の肖像を彫刻するために使用されました。カメオの彫刻は、政治的プロパガンダを目的とした一流芸術となります。この時期から存在する最も美しいギリシャのカメオは、プトレマイオスの支配者達の肖像です。
プトレマイオス2世と アルシノエ のカメオ «Gonzaga cameo »(紀元前3世紀前半) (サンペテルスブルグ博物館)
現在博物館で保管されている全てのギリシャのカメオは、ヘレニズム時代から紀元前4世紀の後半以降のものです。
アレースに扮したヘレニズムの王子 (紀元前2世紀)
ヘレニズムまたは初期ローマのカメオ (紀元前2世紀)
2 – ローマ
イリアスのテーマで彫刻された素晴らしいカメオ : トロイアスとポリュクセネー (紀元前1世紀) (パリ、Cabinet des Médailles)
紀元前2世紀前半、ローマによるギリシャ征服の時代に、ローマでカメオ芸術の趣向は始まり、紀元前1世紀後半に拡大します。紀元前63年、ポントスの王ミトリダテス6世の死後、ローマの将軍スッラとポンペイウスは、彼のカメオのコレクションを押収してローマに持ち込み、美しいカメオは流行となります。
裕福なローマ人は、ギリシャの彫刻家にとって最高の顧客になりました。彫刻家達の中には、ローマに奴隷として連れて来られた者もいました。その後、幾人かの自由なギリシャ人彫刻家は、職人としてローマに定住もしました。徐々に、ローマの彫刻家が学校で育てられ、その地でのスタイルを作り上げていったのです。
ローマのカメオ、1つはおそらくギリシャ人彫刻家によって彫られたもの (紀元1世紀) 2つ目はローマ人に彫られたもの (紀元2〜3世紀)
ローマのカメオのテーマは主に神話でした。ギリシャ人同様、ローマ人もイリアスの英雄を表現することを好んでいました。紀元前1世紀後半、帝政期 (アウグストゥス) の始めからローマの支配者たち、特にユリウス・クラウディウス朝の王子もまた、すでにコインで行っていた様にカメオで自身の肖像を広めたがっていました。いくつかの素晴らしい皇室のカメオ (現在、重要な博物館にて所蔵されている) は、大きな多層の瑪瑙に彫られてます。ギリシャ出身の有名なローマの彫刻家Dioscoridesは、アウグストゥスの肖像の作家です。
アウグストゥスの肖像 (紀元前1世紀後半) (パリ、Cabinet des Médailles)
皇室に関連するカメオ芸術 : 皇帝クラウディウス (およそ西暦50年) と皇帝セプティマスセウェルスの家族 (およそ西暦200年)
カメオ芸術は、紀元1世紀以降本当に少しずつ普及しました。多くの職人がより小さく、より低品質のカメオを彫りました。しかし、カメオは常にインタリオより非常に希少で価値がありました。平面的なインタリオよりも立体的なカメオの彫刻ははるかに難しく時間を要した為です。
2つのローマのオニキスカメオ (紀元2世紀) (ギャラリーにて販売)
ローマ時代に最も一般的に使用された石はオニキス (2層の瑪瑙で、上の層は白い方解石で、下の層は暗褐色または灰色青のカルセドニー) です。時々、宝石を切り出す時に、土台の黒を強調する為に蜂蜜で満たして過熱することにより、コントラストを増しているものがありました。また最高品質のカメオは、3つの層、もしくはそれ以上の層を見ることができました。
3つのローマのカメオ (紀元2世紀) (ギャラリーにて販売)
最小のカメオは、指輪やイヤリングにセットされていました。最大のカメオは、ペンダントや家具の部品に埋め込まれていました。
指輪とペンダントにセットされているローマのカメオ
最も一般的なテーマは :
- 皇室のメンバーの肖像 (これらはおそらく皇帝もしくはその家族からの贈り物でした。)
ユリウス・クラウディウス朝の王子の2つの肖像画 (紀元1世紀)
- 宗教的な題材: 神々や魔法のシンボル。この場合、これらの所有者は、彫刻された神や女神の保護の下に自分を置こうとしていました。私達は、多くのミネルバ (おそらく軍隊が着用)、メデューサ (メデューサは邪眼から持ち主を守る)、キューピッドを目にすることができます。
3つのローマのオニキスカメオ、ミネルバ、メデューサ、キューピッド (紀元1世紀〜2世紀) (右の2つはギャラリーにて販売)
また、動物 (犬、ライオン、鷲)、幸運の碑文 (ほとんどの場合ギリシャ文字で書かれている)、記号的なもの、日常的なトピックのものもありました。
Derek Content 氏のコレクションから2つの古代ローマのオニキスカメオ
例えば上に上げた2つのカメオ、上段は結婚の記念のカメオ である有名な«junctio dextrarum »は互いに繋がれた2つの手で、団結、結婚の象徴です 、この場合は必ず2つの手が組合わさったデザインです、そうでなければ意味を持ちません。下段の耳に当てた手は「思い出す」を意味するギリシャの合言葉です。
2つのローマのカメオ : ペガサスと « junctio dextrarum » (紀元1世紀〜2世紀) (ギャラリーにて販売)
3 – 古代のカメオと言われてる作品への注意点
古代のものとされるカメオが提供された時は、いくつかの重要なポイントを確認することが大切です。
a- 材質
材質の特定 : 貝殻、方解石、玉髄、瑪瑙、オニキス、水晶、象牙、骨、琥珀、そしてガラスまであります。
ミネルバの高品質ガラスのローマのカメオ (オニキスを模倣) (紀元1世紀〜2世紀)(サイト掲載予定)
古代に使用された石は、後の時代に使われる石と同じものではありません。真の専門家は使用された石が古代の石かどうかを特定することができ、それがアンティークかどうか、また石以外のものかどうかを判別することができます。
b -彫刻の技術
古代の彫刻家は、最近の彫刻家と同じ道具を使用していません。彫りの跡から当時の道具を使って作られたかどうかが分かります。そしてまた、彫りのスタイル、顔の彫り方、髪の彫り方、洋服の彫り方、これらに特徴が出ますから、このような事を気をつけて確認する事が大切です。
踊っているメナードのローマのカメオ (紀元1世紀〜2世紀) (トーヴァルセン美術館)
ライオンに乗るキューピッドのオニキスカメオ。このテーマは古代ローマですが、彫刻の技術はローマ時代のものではありません (17世紀)
このように古代ローマのカメオのように見える後世の作品が多くあります。
c- 描かれているテーマ
専門家は、完璧にテーマを特定することができなければなりません。例えば、ギリシャの神とローマの神をごちゃ混ぜにしたり。シレニュスとコメディアンマスクを混同しない、など。
例えば、、、
古代のカメオ、古代のインタリオの専門家になるには長い時間を必要としますが、深い知識を備えた専門家は正確な題材を間違いなく認識できます。
例えば、左上の緑色のインタリオの題材が愛らしい希望の女神SPESであるとすぐにわかるのです。それは右上の古代のコインや、下の美術館のカタログなどにも資料が掲載されています。(インタリオはギャラリーにて販売)
古代には決して現れなかったテーマもあります。例えばあるテーマは特定の時代では典型的ですが他の時代ではそうではありません。ドレスや髪型の流行もカメオ (またはインタリオ) の時代判定にとって重要な要素となります。真の専門家は、人物のドレスや髪型を研究することで時代を識別する事ができます。例えば、ある種類の鎧や兜、ある形の髭は、古代ギリシャ時代には存在しましたが、アウグストゥスの時代には存在しなかったものがあります。
ギリシャの哲学者のオニキスカメオ。テーマはローマ時代ですが、髪型と髭の形はローマ時代ではありません。 (17世紀)
d- 時代
もちろんこれが最も重要なポイントです!
幸いなことに、アンティークのカメオの現代のフェイクは非常に少ないです。なぜなら、それらはインタリオや金の宝石よりずっとずっと模造が難しいからです。ただ残念なのは、カメオの時代の特定ミスが多いことです。
博物館の外部には、ギリシャのカメオがほとんど存在しないことに注意して下さい。あるカメオがギリシャのものだと言われた場合、90%は最高でもローマ時代のもので、最悪の場合は、中世、ルネサンス、または最近のものです (17世紀〜19世紀)。
このカメオはグレコローマンのものに見えます…しかしこれは…13世紀の間に彫られたものです!
良質のローマのカメオは極めて稀で、本物のカメオは高価です。そして殆どのカメオは低品質です。ローマのカメオと、後の時代 (16世紀〜19世紀) のカメオはよく混同されます。
ローマ皇帝…17世紀のオニキスカメオです。
材質、彫刻技術、テーマを深く深く研究することで、真の専門家は時代が判別可能となります。
真の専門家は、これら全ての要点について完璧な知識を持っていなければなりません。
4 – まとめ
いわゆる古代カメオに興味のある方が気をつけなければならない事は、自分が購入するカメオ (またはインタリオ) の材質は何か、テーマは何か、そして最も重要なことですが、それがどの時代の物なのかを正確に知ることです。ギリシャのカメオ、ローマのカメオ、そしてより最近のカメオでは、価格が完全に異なるので注意して下さい。
価格が非常に高価である場合は、特に慎重になって下さい。古代カメオの真の専門家は、カメオのテーマと時代を確認するために、博物館の同等の品や資料ををいくつかみせてくれるでしょう。そうでない場合は、この専門分野で認められた専門家の証明書を提示してくれるでしょう。
例えば、私の最も信頼している古代カメオと古代インタリオのフランスの専門家は30年のキャリアがありMichel DuchampやJean-Philippe Mariaud de Serresのような有名な学者や専門家と知識を共有しています。そして、フランス国立図書館、Cabinet des Médaillesの専門家と意見交換を行い、作品を説明する時には必ず美術館所蔵品などの資料を提示します。
高価なカメオ (またはインタリオ) と言われているものについて何か疑問がある場合、クリスティーズなどにアドバイスを貰うのも良い事だと思います。
カメオ 若いサテュロスとプリアップ、後期ルネサンス(ギャラリーにて販売)
仙波亜希子 Akiko semba
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