アンティークレッスン No2 ~16世紀の指輪?~


アンティークレッスン第2回目です。いつも私達はe-mailで世界中から毎日のように品物のご相談を受けていますが、今日はその中から一つ実際にあった相談を例をとしてご説明させて頂きたいと思います。相談内容は16世紀の指輪だと説明を受けて購入した作品について意見を求められました。送られてきた写真はこちらです。

 

 

 

鑑定をするにあたり、確認しなければいけない大切な事はこの2点。

 

I – 年代はいつか?

II – 本物か偽物か?

 

実践編ということで少し難しいと思いますので是非集中して

じっくり読んでみて下さいね。

I - 年代はいつか?

16世紀の指輪ということでご相談を受けましたが、このスタイルの指輪は英語でクラスターリング・仏語ではバーグ ブケと呼ばれ、このデザインは1650年以降に始まり1750年頃まで流行したスタイルなのです。それではリングの特徴を一つずつ細かく確認してみましょう。

 

1)テーブルカットダイヤモンドは17世紀の間により多く使われ、

ローズカットダイヤモンドは17世紀にも使われますが、18世紀の間により多く使われています。

2)ドントレと呼ばれる小さな三角形のような装飾のラインは17世紀の間に、

 

ミルグレーションのような線は18世紀の間に使われています。(ですが、この写真よりも小さなミルグレーションになります。)

3)ベゼルの裏はこの年代は常に閉じられており、開いていることはありません。

4)裏面のエナメル(通常、黒いエナメルに白い点々)は典型的な17世紀のスタイルです。

5)18世紀よりも17世紀の方がシャンクはより深く彫金がされ、そこにブラックエナメルが施されます。

 

以上の特徴から、この指輪が16世紀の作品であるという年代判定は間違っており、このスタイルは典型的な17世紀後期のスタイルであることが分かります。

☆同時に各国の同年代の作品の特徴も簡単につかんでおきましょう☆

☆スペイン、ポルトガル、イタリア、オランダではほぼ全て金で出来た作品が見られます(これらの国はスペインが支配していた為)

☆金とシルバーの組み合わせはフランス、イギリスで良く見られます。

☆テーブルカットダイヤモンドよりローズカットダイヤモンドの方がフランスやイギリスでよく使われています。

 

以上で  I  は終わります。これからII へ進みます。

II – 本物か偽物か?

 

これはとても大切な事なので以下の細かな点を注意深く確認する必要があります。

それでは気をつけて観察してみて下さいね。

1)指輪のトータルデザイン

2)石のカッティング

3)金属のクオリティ、特に金のクオリティ、金の混合物は年代や国によって違うので注意が必要です。

4)装飾のディテール

5)使用感

では確認してみましょう。

 

 

全体の形は問題ありません、イギリスかフランスの17世紀後期のリングと相違ありません。

 

しかし、テーブルカットダイヤモンドとローズカットダイヤモンドが同時に使われているのもありますが、相当に稀(まずないです)ので自然ではなく、違和感を感じます。

メインダイヤモンドのカッティングはこの年代の普通のカットではないようです、なぜなら、カッティングがかなり長方形すぎてカッティング自体に違和感を感じます。

金の色はまあまあ良いようです。

ベゼル裏の装飾から違和感を感じます、またベゼル裏が開いているのはこの年代では全く普通ではあり得ません、(裏を空けるのは1830年以降です。)ベゼル裏の装飾のクオリティは大変低いです。

 

ベゼルを囲むようにミルグレーションが打たれている事は相当に稀(まずないです)ので、この年代の作品としてかなりの違和感を感じますし、数少ない例外も本来はもっともっと小さくてスムースなミルグレーションになるので、このようなざっくりしたミルグレーションではありません。このような装飾は本物の同タイプのリングでは相当に稀です。

 

 

そして、これらのミルグレーションとドントレが混合された装飾も相当に珍しいのでかなりの違和感を感じます。

-鑑定結果-

全体のスタイルは17世紀後期の指輪です。しかし以上の事から、かなり珍しい特徴や通常見られない特徴を一度に備えてしまったこの指輪は、普通ではあり得ない違和感をかなり感じる奇妙なフェイクアンティークジュエリーであると言えます。

ただ気をつけて欲しいのは、鑑定は総合的に判断するものです。極めて稀な例外の一つをリングの中に見つけたからと言って、すぐにそれがフェイクになるかと言うとそうではありません。フェイクであると判断するのにいくつか確認するサインがあります、まず、この指輪のように例外が一度に集まっている事、これはフェイクのサインの一つです。そして、古い年代の指輪であるのにまったく新しい状態を保っている事、これもサインです。このように総合的に判断することが大切です。

そして、このリングは実際に手にするまでは19世紀に17世紀後期の指輪として作られたフェイクであるのか(19世紀のフェイクは裏を空けている事が多いです)現代のモダンフェイクであるのか判定はできません。

この指輪は実際に販売されており、アメリカのテキサスのディーラーからの購入で7900$、日本円で約¥700,000です。これが16世紀の指輪として販売されていたので相談者は16世紀の指輪ではないばかりかフェイクアンティークジュエリーを購入してしまった事になります。

最後に本物の17世紀〜18世紀の同タイプのリングの写真を沢山掲載しましたのでご覧下さい。

17世紀〜18世紀の指輪の雰囲気を感じとれるように細かなディテールなどにも注目してみて下さいね。

 

ここから先はより古いリングをご紹介いたします。

イタリア 1660年頃(販売済)

スペイン 1680年頃

おそらく オランダ 1680年頃

スペイン 1680年〜1700年頃

フランスもしくはイギリス1680年〜1700年頃

スペイン 1700年頃(販売済み)

センターストーンはオリジナルではありません。

ボヘミア,プラハ 1700年頃 (販売済み)

ちなみに、この二つの石はオリジナルストーンではありません、

石のカッティングが違うのが分かりますか?

おそらくボヘミア? 1700年頃(販売済)

フランス18世紀初期(販売済)

 

フランス18世紀初期(販売済)

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