アンティークレッスンNo8 ~ジョージアンとルイ16世スタイルのリングの問題点~


ジョージアンとルイ16世スタイルのリングの問題点

現存しているジョージアンとルイ16世スタイルのリングのコンディションにはいろいろなパターンがあります。

完璧にオリジナルの状態を保ったものから、リフォームされているもの、一見オリジナルに見えるけれど別々のパーツから構成されて一つのリングになっているものまで様々ですから、写真を交えながら詳しく説明したいと思います。

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このレッスンでは、「ベゼル、フープ、ショルダー」という言葉を頻繁に使っています、これらは指輪の各名称です。ベゼルとは黒で囲った部分の事、指輪の正面のことですね、フープとは青で囲った指を入れる輪の部分の事です、ショルダーはベゼルとフープをつないでいる赤で囲った部分の事です。

 

1-リングを構成するパーツ全てがモダンフェイクの場合

リングのパーツ全てがモダンフェイクは存在が稀です、何故かというと18世紀の指輪は技術的に再現が困難だからです。ただ、18世紀のフェイクダイヤモンドリングは高価で販売するのが簡単で採算もとれるのでフェイクが多く製作されていますから、気をつけた方が良いでしょう。過去のアンティークレッスンでジョージアンのフェイクダイヤモンドリングについて詳しく説明していますから、ご興味のある方は是非ご覧下さい。

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    〜1780年の本物のアンティークのリング(左)18世紀のフェイクのリング(右)〜

また、19世紀のリングが18世紀のリングだと勘違いされている場合もあります。なぜなら、イギリスのジョージアンスタイルは19世紀初期まで続いていた事と、フランスではルイ16世スタイル(ネオルイ16世スタイル)は19世紀中期まで流行していたからです。

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〜フランス、18世紀のスタイルの1850-1870年製作の二つのリング〜

 

2-ベゼルとリングが後の時代に別々に付け替えられている、又は修復されている。

これが最も多くあるパターンです。これはどういうことかというと、細部まで18世紀そのままのデザインのリングは19世紀には流行していなかった為、19世紀の所有者がリングをブローチやペンダントにリフォームしたジュエリーが沢山残っています。

一時期は流行遅れになってしまった18世紀のデザインのリングですが、時代が流れるにつれて、再び人気が出始めます。それにつれてペンダントやブローチにリフォームされたリングが再びフープへとセットされたリングも多くあります。

そのようなリフォームを経たリングは全てがオリジナルの状態のリングよりも価値や価値が下がるので、購入の際には気をつけた方が良いでしょう。

それでは実際に18世紀のリングがどのような状態で残っているのか、二つの例を見てみましょう。

まず、次の二つはベゼルは本物、リングがモダンのパターンです。

ring4561〜ベゼルは本物でフープがモダン〜
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 〜ベゼルは本物でフープがモダン〜

この二つの例はベゼル部分はアンティークですが、黒丸で囲ったフープ部分がモダンである事はすぐに分かります。繊細ではないボテッとした形、金の色も悪く、摩耗の跡もありません。

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〜ベゼルもフープもアンティークですが別々につなぎあわせている例〜

そして、このダイヤモンドリングの場合はベゼルもフープも18世紀の本物なのですが、このリングはオリジナルの状態ではなく、本来、別々のパーツだった二つをレーザーやスズで一つにロウ付けしたものです。黒丸部分に跡が見えます。

 

3-リングのベゼルが、本来はブローチやペンダント、イヤリングの一部であった場合。

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〜左ペンダント 中右ブローチ このようなペンダントやブローチはリングへの加工が簡単です。〜

18世紀のリングは18世紀のペンダントやブローチよりも希少で人気があり高価です、そして需要があるので売りやすい為に、18世紀のペンダントやブローチにフープをつけて指輪に加工し直して18世紀の指輪として売られている場合が多くあります。例を見てみましょう。

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〜ペンダントやブローチから指輪へのリフォーム例〜

この写真では美しいブルーグラスのリングに見えますね。ところが、フープ、ベゼルの裏を確認するとベゼル裏が指に合わせて湾曲しておらず平で、上下がネジで留められていることが確認できます、これは本来リングではなくブローチかペンダントからリフォームされたリングということを表しています。

この方法は一例ですが、このようにしてペンダントやブローチがリングにリフォームされている事があります。これらはリングのように見えますが、本来はリングではありませんから、正確にはフェイクリングといえるでしょう。

4-フープがオリジナルかオリジナルではないかを知る二つのポイント。

a) フープについて
フープの形が良いかどうか?ショルダーのデザインは良いかどうか?ショルダーの彫金の装飾は良いかどうか?年代に対して金の色が良いかどうか?フープに摩耗の跡があるかどうか?これらは言葉で説明してもなかなかわからないと思うので、で詳しく解説します。

b) ベゼルとフープ部分のロウ付け
ロウ付けが古い技術と同じ方法で接着されているかどうか?例えば、レーザーを使っていた場合はモダンの接着方法ですから、その時点で気をつけた方が良いでしょう。

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〜18世紀のオリジナルのロウ付けの例、シャープで綺麗な仕上がりです〜

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〜現代のレーザーによる接着跡 1 完成度が低く綺麗な接着面ではありません。〜

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〜現代のレーザーによる接着跡 2〜

現代のレーザーの使用以前は、ジュエラーは金だけではなくスズもロウ付けに使用していました、金よりも融点が低いので、熱によってエナメル、真珠、髪の毛、アイボリーなどにダメージを与えない為です 。スズはオリジナルリングを作る時、リペアの場合、もしくはフェイクリングを作る場合に使われています。同じスズでの接着でもオリジナルとフェイクで仕上がりに差が出ます、確認してみましょう。

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〜リペア跡、フープとベゼルの間にはっきりとしたロウ付け跡が見られます、これは、19世紀にリペアされている印です。〜

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〜ベゼル表が本物、ベゼル裏とフープがモダン〜

ベゼル裏とフープ、これがアンティークではなくモダンなのは明らかですね。(金の色が違いますし、ベゼルのトップと裏面の差がはっきり分かります、フープの出来も厚ぼったくてボテっとしています。)接着面がほとんど見えないようにスズでロウ付けされている例です。

基本的には18世紀の間、大抵の場合はフープとベゼルは別々に作られており、ベゼルのエナメル加工や真珠留めなどのモチーフを作る前に金でロウ付けしていた為にスズをロウ付けに使う必要はありませんでした。

しかし時々、本物のリングもスズでロウ付けされています。この場合のスズのロウ付けはほとんど見えないように処理されていて、ごく僅かな黒い線をベゼル裏面とベゼル表面の間に見る事ができるのが特徴です。このような例です。

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 〜全てがオリジナルの本物のリングのスズによるロウ付け、この場合はごくわずかな黒い線が見られます。〜

ですから、18世紀のリングの裏面でロウ付けの跡がごくごく細い黒線ではなかった場合、それは完成度の低いリペアかフェイクの証拠です。

5-18世紀後期のフープとショルダーの形

a) 平らなフープ

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〜平らなフープの例、左がシンプルなタイプ、右が彫金が施されているタイプ〜

 

平らなフープは18世紀後期のもっとも通常のデザインです。特に、マーキーズシェイプリングに良く見られます。ショルダーはベゼルに向かって幅広で、つるっとシンプルなタイプか、彫金が施してあります。

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〜幅広のショルダーにブラックエナメルの装飾、彫金のデコレーション〜

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〜ショルダーとベゼル両方に施された美しい彫金〜

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〜19世紀中期、ブラックエナメルと彫金のデコレーションのショルダー〜

b) 丸いフープ

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〜フランスのカメオリング(18kイエローゴールド)イギリスのリング(9kのピンクゴールド)〜

丸いフープはより珍しく古代ローマのスタイルにインスピレーションを受けています。これはネオクラシカルスタイルとしてインタリオやカメオがセットされていることが多いです。

c) アネル フープ

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〜文字が刻まれたアネルフープ〜

 

アネルフープとは細くて丸いごくシンプルなフープの事。これはとてもシンプルなリングで結婚指輪にインスピレーションを得ています。18世紀後期のイギリスのリングで、丸いベゼル、もしくはマーキーズシェイプのベゼルの物によく使われています。そして、フープにはよく文字が刻まれています。

d) バロックスタイルのフープ

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〜左、バロックスタイルのフープ イギリス 1765年 小さなベゼルに石が留められたタイプ  右 ドイツ1765年頃〜 小さな葉のようなデコレーション〜
バロックスタイルのフープは18世紀初期の流行のスタイルです。18世紀後期にはこのスタイルはより珍しくなってきます、特に小さなベゼルに石が留められたタイプのリングの事です。大抵の場合は、ショルダーは別れたスプリットタイプか葉のような小さなデコレーションがあります。

e) スプリットショルダー

ベゼルとの設置面がいくつかに別れているスプリットショルダーはバロックスタイルに由来します。18世紀後期にはショルダーのデザインは、より幅広で印象的なものになっていっていたので、これらはフラットなショルダーよりも稀でした。スプリットショルダーには常に美しく繊細なデザインの装飾が施され、そして摩耗の跡は殆どの場合確認できます。

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〜3つのスプリットショルダーの例 左 1780年頃 / 中央1790年頃 /右 1800年頃〜

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〜二つのスプリットショルダーの例 よく見るとフチにごく細い線が刻まれているのがわかります。 左1800年頃  右1815年頃〜

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〜モダンフェイクスプリットショルダーの例、これらは非常に簡易な作りで装飾がなく、フチの彫金もありません。〜

6-ベゼルの裏

そのリングが本物かフェイクかを知るにはベゼルの裏を見る事は興味深いものです、裏からは良い作りである事を確認しなければいけませんし、悪い接着面があるかないかも見ましょう、時々ベゼル裏には日付が彫り込まれている事がありますから、製作年代を確認することも出来ます。本物のオリジナルのリングの美しい裏面の写真を掲載しましたので良く見てくださいね。

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〜イギリスのリング 1760年頃   イタリアのリング 1750年〜1775年〜

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〜フランスのリング 1790年 イギリスのリング  1790年〜

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〜イギリスのリング 1788年〜1791年〜

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〜ドイツのリング1788年 イギリスのリング1797年〜

 

 

☆☆まとめ☆☆

このように18世紀後期のアンティークのリングには、現在に至る過程で様々な変化をしているものがあります。

アンティークのベゼルとモダンのフープ、アンティークのベゼルとアンティークのフープの組み合わせのリングには美しくて良い物もあり、完璧なオリジナルリングではありませんが、適正な価格であれば購入しても良いと思えるリングもあります。

ですが、リングがオリジナルではない場合はきちんと説明をうけた上で納得して購入が出来るのがベストだと思います。何故なら、完璧にオリジナルではない作品は価値も価格も下がりますから、それを知らずに高額でオリジナルではないリングを購入してしまった事を後に知るのはとても残念な事だからです。

18世紀のリングといってもいろいろな状態で残っている物が多いので、そういった認識を少しでも深めて頂ければ嬉しいです。

 

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 ギャラリーにて扱っている18世紀の全てオリジナルのリング

 

 

 

Parisのアンティークディーラー 仙波亜希子 Akiko semba

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