18世紀ブローチまたはイヤリングの年代を見極める手がかり
- 2014年02月02日
- アンティークレッスン
18世紀ブローチまたはイヤリングの年代を見極める手がかり
18世紀の指輪については、リングのアンティークレッスンでご説明致しました。今回はブローチとイヤリングの年代を見極める方法をご説明致します。いわゆる18世紀のジュエリーを観察する際には、注目すべき4つの状況があります。
1) ジュエリーが完全なる本物の場合。
本物のバロックジュエリー自体が非常に希少です、そしてリペアがまったく無いバロックジュエリーを見つけることはさらに希です。リペアがあった場合には、リペアの善し悪しがありますから、注意してください。
非常に素晴らしい17世紀後半のゴールドのエレメント、ダイヤモンド、エメラルド、エナメルが施されています。このエレメントはクロスの上部でした、今はそのクロスが欠けています。リボンに掛けるためのオリジナルのバチカンは、今も裏側にあります。しかし、それは小さかったため、宝石職人がより大きなものを19世紀に加えています。バチカンを良く見てください。デザインの違い、 製作方法、宝石の留め方、エメラルドの産地 (ブラジル産)によって、この修繕の痕跡がはっきりと分かるのです。この作品はオリジナルの状態ではなく、修繕がされていますが、それは問題ではなく、大変美しい17世紀ジュエリーのパーツの一つとして希少な作品です。
18世紀 « girandoles» ピンク色ホイルにトパーズを付けたイヤリング
そして、宝石についても注意してください。この時代のジュエリーの多くは、本物の宝石ではなく、人造宝石が装飾されている事がありますから、特に人造宝石に注意してくださいね。
例えば、着色されたホイルの上に宝石を置いて、宝石の色を強めている場合があります。 時には、宝石自体には色がほとんど無く、単にホイルによる色が反映されているだけの場合もあります。ピンク色の宝石には特に注意しなければなりません。
2) ジュエリーが現代製のフェイク。
ジュエリーのデザイン、製作方法、金属による宝石の留め方、宝石のカット、宝石の産地など、これらはそのジュエリーが本物であるか否か知るための手がかりになります。
3) ジュエリー の一部が本物。
例えば、リングのベゼルは18世紀のもので、フープはオリジナルではない場合(フープが現代の物、又はアンティークの物ではあるが、別のジュエリーのフープを使用している等)そのスタイルと現代の手法がフェイクである事の証拠になります。また、本物のパーツと他のパーツの間にあるはんだ付けの跡にも注目してみてください。
これについては« リングのアンティークレッスン»で詳しく説明していますから、是非ご覧ください。
4)19世紀のジュエリーが18世紀と間違って説明されている。
この状況はアンティークマーケットでよく見られます。18世紀のジュエリー(ジョージ王朝時代前半)と呼ばれている作品の中には、18世紀ではなく19世紀の作品の場合があります(ジョージ王朝時代後半またはヴィクトリア王朝時代)。何故このような事が起こるかというと、その理由は、19世紀前半に 、昔の方法でジュエリーを製作し続ける職人が存在したこと、またそれ以降の時代 (1850-1870年のフランスのナポレオン3世時代や、1890 – 1915年のベルエポック時代)に、18世紀スタイルジュエリーが流行していたからです。
今回のレッスンでは、ブローチとイヤリングの年代を確認するための手がかりを紹介します。その方法とは、まず裏側を見ることです!
イヤリングはフックを、ブローチは留め具やピン、ヒンジを観察することが、ジュエリーの年代を特定したり、異なるシステムが使用されているかを判断したりするための最も簡単かつ正確な方法です。
I – ブローチ
胸元を飾るジュエリー ストマッカー このジュエリーにはブローチピンは無く、ドレスにそのまま縫い付けていました。
17世紀と18世紀には、ブローチは流行していませんでした。その代わりにストマッカーと呼ばれる、裏にブローチシステム の無いジュエリーを直接洋服に縫い付けて使用していました。また、リボンで首元に留めるペンダントを使用していました。
一般的な« T-C» システム(ヒンジとピンがTのように見える、キャッチはCの形)は、18世紀には非常に珍しいもので、イングランドなどで小さなモーニングジュエリーに使用される程度でした。
オリジナル « T-C »システムを使用したイングランドのモーニングブローチ。
この18世紀のシステムデザインは、19世紀のものとは異なります。
« T-C»システムは、ヴィクトリア王朝時代で主に使用されていました。この時代のブローチピンは、とても長く、ブローチの外まで伸びているものが普通でした。これはヴィクトリア王朝時代 の厚い生地にブローチをしっかりと留め付けるための補助が目的でした。また、セーフティクラスプが発明されるまでは、ブローチが外れないように保護の役割も果たしていました。
後期世紀が変わる頃、ヒンジはより小さく丸くなりました。Cクラスプと小さなヒンジ(チューブヒンジでない)を使用したブローチは、1800-19世紀後半のものです。そして、ブローチピンも短くなってゆきました。
このシステムが完全に安全ではなかった事から、新しいシステムが生まれます。
それが« trombone clasp »です、このシステムは19世紀後半に登場します。チューブ型の留め具を引いて開ける様子が、トロンボーンに似ていることが名前の由来です。トロンボーンシステムはフランスではsystème à pompeと呼ばれています。
« safety clasp »オリジナルスタイルのセーフティクラスプは、1910年頃に開発されました。これらは現代の物とは仕組みが少し異なります。レバーが上向きではなく下向きに巻きこれまれています。それは基本的に留め金のあるCクラスプのような形状です。
1920年代頃、現代の折り込み式のセーフティークラスプが発明されました。これは重いジュエリーをしっかりと留めることができます。そのおかげで、ブローチはより機能的になり、現代女性のアクティブなライフスタイルにもブローチを安全に使用できるようになりました。
もしこれらの取り付けシステムが、18世紀と思われるジュエリーに施されている場合、二つの可能性があります。
1) ジュエリーが19世紀 (もしくはそれ以降)
2) ジュエリーは18世紀であるが、後にブローチに作り替えられている。この場合、ブローチとシステム間にはんだ付けの痕跡が見えます。もしブローチシステムが後から付け加えられている場合、それは簡単に見て分かります。はんだ付けの痕跡がなく、システムがオリジナルに見えるなら、そのブローチは18世紀ではなく、おそらく19世紀です。そして気をつけて頂きたいのは、18世紀と19世紀のジュエリーでは価値も価格も違うということです。
実際に18世紀のジュエリーに、19世紀か20世紀にピンをつけた例をご紹介致します。
19世紀または20世紀に製造された18世紀ブローチにおける3つのエレメント。一つ目はイヤリングのトップ、二つ目はリング、三つ目は洋服に直接縫い付けられた小さなエレメントです。
ブローチに作り替えられた、18世紀のポルトガル «girandoles» イヤリング。トパーズが付いています。
18世紀前半のスパニッシュのゴールドとダイヤモンドのストマッカー、裏面を見ると、、、
ブローチに作り替えられている事がわかります。
ブローチに作り替えられた、18世紀 フランスのペンダントです。リボンを通す為のオリジナルのフープが残っています。
ブローチに作り替えられた、18世紀 スパニッシュゴールド と エメラルドペンダント。リボンのためのオリジナルフープが中央に残っています。ストマッカーからブローチへ作り替えられたジュエリーは、その他にかえられている部分がなければ、それほど価値に影響はありません。
II – イヤリング
17世紀と18世紀にはイヤリングは珍しいものでした。理由は、一般の人々がそれらを使用していなかったことです。使用していたのは貴族のみで、しかも宮廷での舞踏会などの非常に特別な機会だけでした。そのため、この時代のイヤリングは驚くほど重く、« girandoles » と « pendeloques »のようにとても豪華なデザインでした。さらに、イヤリングには、リボンでウィッグ に掛けるための特別なシステムがありました。フープに追加のリングをはんだ付けし、イヤリングの重みをウィッグで支えられるようにすることで、もしホックが突然開いて耳から落ちたとしてもイヤリングを紛失することがありませんでした 、これは高価なジュエリー用の当時のセーフティシステムです。
18世紀イヤリングのオリジナルシステムは、現在で使用することはほぼ不可能です。理由は、現代の耳穴には当時のホックが分厚過ぎるからです。また、それらのイヤリングはシルバー製であったため、私たちは着用する際にアレルギーを起こす可能性があります(ゴールドやプラチナにはアレルギーはありません)。もし、イヤリングをリボンでウィッグに取り付けるなら別ですが、このアンティークのシステムは、あまり安全とは言えません。
18世紀後半の « clusters »イヤリング。オリジナル システムを使用し、シルバーの上に人造宝石を置いている。イヤリング をウィッグにかけるための非常に分厚い ホックとリボン取り付け用のシステムです 。
そのため、当時のシステムのままのイヤリングは、後の時代により快適で安全なアレルギーの少ないものに取り替えられるようになりました。もし、他に何も取り替えられなければ、オリジナルのシステムではなくてもイヤリングの価値には影響しません。
もし 18世紀のイヤリングを購入したい場合には、このシステムを良く確認する必要があります。もしシステムが18世紀の物ではない場合、難しいと思いますが、そのシステムが後に付け加えられたものかどうか、本体とフックの接着面をよく見てください。もし、付け加えられていたらそのイヤリングは18世紀の可能性がありますが、付け加えられていないように見えたら、そのジュエリーは19世紀もしくはそれ以降のものであるという証拠になります。
オリジナル システムの17世紀後半のゴールドとダイヤモンド « pendeloques »イヤリング
オリジナル システムの18世紀中頃の « girandoles » イヤリング 。ダイヤモンドとルビーが付いている。
オリジナルシステムの18世紀の « girandoles »イヤリング。マザーオブパールが付いている。
オリジナルシステムを使用した、18世紀後半のポルトガル の« pendeloques »イヤリング二つ。クリソベリルが付いている。左側には、リボンをウィッグに取り付けための追加リングがある。
18世紀後半のポルトガルの« pendeloques » イヤリング。 クリソベリルが付いている。オリジナルのホックがスリムなものに変更されている。
III – まとめ
もし、あなたが、17世紀や18世紀のヨーロッパの優雅な貴族社会や、王妃マリーアントワネットやポンパドール夫人が生きていた頃の舞踏会を想像して、当時のジュエリーを所有する事を夢見るなら、是非気をつけてください。
あなたの純粋な夢を守るために、当時のジュエリーを見極めるポイントを説明しました。文章を読んだだけでは見分けるのは難しいと思いますが、アンティークマーケットには、沢山のフェイクや作り替えられた« half-fake »(半分が本物、半分がフェイク)が存在している事を知ってください。
19世紀のスタイルのジュエリーを18世紀と勘違いして購入しないよう気をつけてください、そして、18世紀のジュエリーのパーツを後の時代に、リングやブローチなどに大幅に変更したものや、ベゼルのみが本物でフープがモダンのリングなどは購入されない方が良いでしょう。
是非、17世紀、18世紀からそのまま残り続けた美しい本物のオリジナルのアンティークジュエリーを購入して頂きたいと思っています。フェイクジュエリーには、金属と宝石の価値のみしかありません。また、作り替えた« half-fake »ジュエリーの価値は殆ど無い場合があります。
私が身につけているのは本物の18世紀のシルクのドレスです(^-^)
とにかく手刺繍が繊細でした!
着用するのが大変だったので、着替えに侍女が必要なのが良〜くわかりました!
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仙波亜希子 Akiko semba
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